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コルベ神父と丸尾末広

 マンガ週刊誌『モーニング』(講談社)が,創刊35周年を記念し,2017年以来 Carnaval という読み切り特別作品のシリーズを掲載しています.先日発売された2019年24号(2019年5月16日発行)にはその第65弾として,丸尾末広『オランダさん』が掲載されました。
 この作品は,ポーランド人のカトリック司祭マクシミリアン・マリア・コルベ (Maksymilian Maria Kolbe 1894-1941)を主人公とし,日本人少年との出会いを交えながら,ほぼ史実に忠実にコルベ神父の後半生を描いた,力のこもった作品です.
 コルベ神父は,長崎に「聖母の騎士修道院」を建て,ここを拠点に1930-36年に日本で宣教活動を行いました.その後ポーランドに修道院長として呼び戻され活動しているところで,第二次世界大戦が始まり,ユダヤ人だけでなくスラブ人の奴隷化とスラブ人の知識人絶滅を進めていたナチスドイツの占領下で逮捕され,アウシュビッツ強制収容所に送られました.妻子がいると言って泣き叫ぶ一人の囚人 フランツェク・ガイオニチェク (Franciszek Gajowniczek 1901-1995) の身代わりとなって「飢餓房 Hungerbunker」に入れられ,他の囚人を励ましながら,静かに殺されていきました.1982年教皇ヨハネ・パウロ2世によって列聖されています.
 丸尾末広といえば,独特のリアルな絵柄で,1930年代の風俗や雰囲気を背景に,過剰なほどの残虐さやエロスに満ちた幻想的作風でカルト的ファンを持つ漫画家です.2009年に手塚治虫文化賞新生賞を受賞しています.1980年代に青林道から出版された『薔薇色ノ怪物』以降数冊は,私も学生時代に読んで衝撃を受けた経験があります.衝撃は受けたが,好きではなかったし,学生たちに薦めもしませんでした.コルベ神父の物語などとは,おおよそ無縁の作家だと思っておりました.今回の作品を前にして,自らの不明を大いに恥じております.あの絵柄でこそ,アウシュビッツの「飢餓房」は描かれるべきであったのだと思い知りました.