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衣装を着けろ!

 ベルリンに2週間ほど滞在し,オペラ・コンサート・博物館を堪能してきました.国立歌劇場 Staatsoper でヴェルディ「ドン・カルロ」(Zanetti指揮,Himmelmann演出),ドイツ歌劇場 Deutsche Oper でプッチーニ「蝶々夫人」(Clampa指揮,Samaritani演出),マスカーニ「カヴァレリア・ルスティカーナ」,レオンカヴァレロ「道化師」(どちらもArrivabeni指揮,Pountney演出)を観ることが出来ました.蝶々夫人を演じた Elena Stikhina,Turiddu と Canio を演じた Mikhail Pirogov,それからNedda の Sua Jo,Beppo の Ya-Chung Huang がとても印象に残りました.

 ベルリン・フィルのホールでMirga Grazinyte-Tyla指揮のミュンヘン交響楽団によるマーラー交響曲第2番「復活」を,コンサート・ホール Konzerthaus では、Joana Mallwitz指揮の同ホール交響楽団の演奏でストラヴィンスキー「春の祭典」を,国立歌劇場のアポロ・ホール Apollosaal で,若手の奏者によるハイドン,フィビヒ,ドヴォルザークの室内楽を聴きました.特に上り調子で活躍中の2人の30代の女性指揮者,ミルガ・グラジニュテ=テュラとヨアナ・マルヴィツの演奏を生で聴けたのは良い経験でした.評判になった映画「ター Tár」を思い出しましたが,2人とも楽団ととても息の合った演奏で,現実の方は映画よりももっと進んでいる(つまらん邪推を振り払って)ような印象を受けました.これらの曲の解釈に必要な「外連味」とか「パフォーマンス」の意味をまっすぐによく把握していることが伝わってきて,小気味の良ささえ感じました.

 「道化師」の有名なアリアは,イタリアオペラのファンだった亡父が特に好きだった曲で(他には「プロヴァンスの海と陸」とか「我が名はミミ」とか),おかげで私も子供の頃から親しんだものです.
 とは言っても,Bah! sei tu forse un uom!「お前人間なんだろう?」と叫んだ後で,わざとらしい高笑いをし Tu se' Paliaccio.「お前は道化師さ」と暗くつぶやき,歌に入って,いよいよ曲の最後の山場に Ah, Ridi Pagliaccio, sul tuo amore infranto ! Ridi del duol che t'avvelena il cor. 「ああ,笑え,道化師よ,砕かれた愛を!笑え,胸をはむ苦しみを!」の後で,またわざとらしく号泣し,ややあって,後奏が雰囲気を変えたところで,決然と幕を払って舞台に向かう(客の目から消える),というおなじみの演出を期待していたのですがーーーもうとっくにそんな古臭い演出はしなくなっているようで,高笑いや号泣の演技はなし,私のような親子二代のオールドファンには物足りないことでありました.

 子供の頃に親しみ,胸を躍らせた曲ばかりに再会できて,嬉しいような,不思議な気持ちがしました.