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Kind や König の話

 Kind やKönig, kindやgentleの語源的つながりについては,さんざん授業で話したよね,と言うのに,長い付き合いの教え子・若い同僚がぽかんとして「埴輪のような顔」をするばかりなので,繰り返しておきます.おおよそ英語を中心にヨーロッパ語関係の外国語にかかわる人なら誰でも知っていて,授業で必ず一度は話しているはずのことなので,ここで事々しく書くのはお恥ずかしいのですが,不肖の弟子のせいです.

 ドイツ語のKind「子供」/König「王」と英語のkin「一族」/child; kid「子供」/king「王」,またkind「種類」/kind「優しい」は,語源的に全て共通で,印欧語の*ĝen-「産む」に由来すると言われています.私の手元にはJulius Pokornyの Indogermanisches Etymologisches Wörterbuch の第2版(1989)しかありませんので,最新の研究をどなたか教えて下さると幸いです.
上に上げたどの語も、共通の先祖から生まれた「一族」を原義とし,「一族に属する者」から「子供」や「王」が派生しているようです.この場合,「子供」はともかく,「王」の意味が派生する流れがよく分かりません.「(高貴な)一族に属する者」という特別な用法から生じたのではないかという説があります.私は「一族を代表する者」という意味から発展したのではないかと考えています.というのも、古い言語の成り立ちを考察しようとするのに,最初から階級差を前提にするのは間違いではないかと思っているからです.
 同様にkind「優しい」も,「生まれつきの性格」「生まれ育ちの良さ」などから発展したのだそうですが,私は「同じ一族の属する者どうしの信頼・安心」という感情から説明出来ないかと思っています.
 他方でこの印欧語の*ĝen-は,ラテン語において、gigno「産む」/nascor「生まれる」/gens「種族」/genus「血統、種族」/natio「出生、民族」という諸語に発展したようです.このうちgenus (generis) がフランス語のgenreとなっていきます.
 ゲルマン語の方の流れと比較して興味深いのは,ラテン語のgensから派生した形容詞gentilisです.ラテン語では「同じ種族に属する」という意味ですが,たとえばフランス語ではgentilは「優しい」という意味の形容詞になり,英語のkindと意味の発展が平行しています.gentilの場合も,「高貴なgensに属する」という原義から発展したのではないかと言われますが,私はkindの場合と同じく,「同じ一族の属する者どうしの信頼・安心」という感情から意味の発展を説明できるのではないかと考えています。
 因みにラテン語のgentilisは,「同じ種族に属する」という原義から,「同郷の」という意味になるのはまだしも,「非ローマ人,野蛮人」という意味も持つようになり,さらに「異教徒」という意味にもなります.「同じ種族に属する」という規定の流動性が良くたどれる意味の発展だと思います.これは別の流れから「ドイツ」ということばの語源にもかかわる問題ですが,きりがないので別の機会にします.