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fensterln ???

 ドイツ語ならではの名詞に 17世紀から使われはじめたSchriftsteller「文筆家」というのがあって,政治評論,演劇評やオペラ評,文芸評論,たまには詩や散文の創作も書くという,とにかく著述を職業とする人のことです.近代のジャーナリズムや文学に重要な役割を果たす概念です.
 今回驚いたのは,schriftstellernという動詞があり,今でもDudenが収録しているということです.いや,意味は「文筆家を職業としている」ということですよ.規則動詞で,schriftstellern - schriftstellerte - geschriftstellertと変化するそうな.frühstücken「朝食をとる」みたいですね.分離動詞にしちゃいけないんですよ.
 昔中世ドイツ文学の論文を読んでいて abenteuern「冒険する」という動詞があるのにびっくりしてドイツ人の学生に聞いたら,やっぱりびっくりしていた覚えがあります.

 さらに驚いたのは,fenstern/fensterlnという動詞です.今も使うそうです.「窓 Fenster」からそのまま作られた動詞で,fensternなら「窓から放り投げる、捨てる」という意味だそうです.問題はfensterlnの方です.-lnは動詞に付ける「縮小接尾辞」で,「ちょっと~する」という意味になるそうです.このfensterlnという語もDudenにちゃんと収録されていて,南部・オーストリア方言の戯語としながらも,"nachts zu einer jungen Frau ans Fenster gehen [und durchs Fenster zu ihr ins Zimmer klettern]"などと説明されていて,これも仰天しました.要するにどうも「夜這い」のことで,「夜中に窓から若い女性の部屋に入ること」としか説明していないが,これでは犯罪です.説明も悪い.恐らくセレナード流れる,ロミオとジュリエットの大胆なデートのようなことを念頭に置いているらしい.
 調べたら,18世紀のアーデルングの辞書にfensternは出ていて、「窓から捨てる」という意味と「夜這い」という意味と,その両方の意味(こっちはイタリア語から来たのだろうと言いうのですが,こういうことになると直ぐイタリア人のせいにするような気がします)が書かれています.
 一体現代ではどんな使われ方をしているのかと思って例文を探すと、次のようなものに行き当たりました:Er erzählt von der Entwicklung vom "Fensterln" hin zum Online-Dating, die nicht nur eine logische Anpassung des menschlichen Verhaltens an den technischen Fortschritt ist, sondern auch eine sprachwissenschaftlich äußerst interessante Entwicklung in sich birgt.「彼はfensterlnからオンライン・デートまでの発展を語った。これは、技術的発展に対する人間行動の論理的な適応であるだけでなく、言語学的に極めて興味深い発展をもたらしている」
 なんか言い訳めいてにわかには頷けない議論ですが,fensterlnという言葉が,「窓」をインターネットのモニターの意味で捉え直して,Online Datingの意味で使われているらしいことは分かりました.はらはらしましたが,まあ辛うじてそれほど悪くない意味に着地できました.「窓辺で語り合う」それだけでインターネットの時代,随分な可能性が広がりましたからね.
 下品なお話ですみませんでした.