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澤田和夫神父様 帰天

 澤田和夫神父様(1919-2024)が帰天されました.104歳であったそうです.

 有名な澤田兄弟といえば,私より上の世代だと,戦後の政官界に影響力のあった,外交官で東京外国語大学初代学長の節蔵(1884-1976),やはり外交官の廉三(1888-1970),実業家の退蔵(1893-1970)の兄弟のことを思い出されるでしょう.また廉三夫人美喜氏(岩崎久弥長女 1901-1980)のエリザベス・サンダース・ホームの設立と孤児の保護・育成活動も忘れがたいものです.
 私などにとっての澤田兄弟は,節蔵の4人の息子たちで,実業家の信夫(1918-2001),和夫神父,筑波大学教授(イギリス史)で保守派の論客,名著『論文の書き方』の著者昭夫(1928-2015),上智大学教授(法学)で国際取引法の専門家,弁護士の壽夫(1933-2016)のことです.これで皆さん亡くなってしまいました.

 澤田神父は,東大法学部を出て海軍将校を務めた後,教皇庁立ウルバノ神学大学で博士号を取り,司祭に叙階されました.高齢になってからのご様子しか知りませんが,学識豊かなお説教を直接聞くことが出来たのは私にとって得がたい経験でありました.旧約聖書 Deuteronomium の訳語「申命記」の「申」は「重ねてもう一度言う」という意味だ,という(文献学者好みの)注解をさらりと入れて下さるのでした.ミサが終わると昭夫先生が槍のように大きな杖を音高く突きながら神父の元に近づき,兄さん,さっきの説教のあそこのところは,と大声で厳しい注文をおつけになる.すると澤田神父様は穏やかな様子のまま「そうかあ?」と相づちを打たれる.そのご様子そのものが尊いものでありました.末弟の壽夫先生には一度高円寺教会の信徒会館でご挨拶する機会を得たことがありましたが,私が駆け出しの大学教員だと知ると励ましの言葉を下さり,御著書の回想録『星を仰いで 大戦の前から現在まで』を御寄贈下さいました.興味深いエピソード満載の本であります.
 
 まだお御堂に冷房の設備もない時代で,係の者が良かれと思って巨大な業務用の扇風機を内陣に向けて設置しておくのですが,高齢の澤田神父は風が当たるのが気持ちよくない.ところが大きな扇風機の切り方が分からない.信徒一同神妙にミサの続きを待っている間に,さんざん苦労したあげく,力を込めてケーブルを引っ張り,コンセントを抜いて,電源を切る.それで安心して,何事もなかったようにミサを続けられます.その飄々たる様子がまだ目に残っています.

 安らかにお眠り下さい.