SSブログ

訃報 平尾浩三先生

 独文学者の東大名誉教授平尾浩三先生が,2024年3月3日に89歳で逝去されたと御家族から連絡を頂きました.心よりお悔やみ申し上げます.
 平尾先生は日本を代表するドイツ中世文献学の専門家で,公私ともに大変御世話になりました.仰ぎ見るばかりで,ご恩の一つもお返しできませんでした.

 平尾先生は,再版されて評判になったハインリヒ・プレティヒャ『中世への旅 騎士と城』と,この分野を学ぶのに不可欠な,あの浩瀚なヨアヒム・ブムケ『中世の騎士文化』の翻訳者です.郁文堂から中世ドイツ文学の作品の翻訳を出しては賞を取られました:ハルトマン・フォン・アウエ『ハルトマン作品集』,コンラート・フォン・ヴュルツブルク『コンラート作品選』,ザイフリート・ヘルブリング『中世ウィーンの覇者と騎士たち』.ドイツ語教育でも最良の成果を上げられ,中島悠爾・朝倉巧両先生と共著の『必携ドイツ文法総まとめ』を越える文法書は今もありません.値段も分量も手頃なのに,内容はずっしりとつまった良書ですから,もしかして今迷っている人がいたら,どうかこれを使って下さい!
 平尾先生のおかげで,後輩にはもう何もやることが残っていない,まさに草も生えない状態に困惑するばかりでありました.学識だけでなく人柄も管理能力も評価され慕われ,ドイツからも日本国内からも様々の業務を持ち込まれて多忙な中で積み上げられた教育研究業績です.

 「ドイツへ行って,きれいな景色だって,大人だけで眺めていたって別に面白くないよね.小さな娘がそばでワーッと喜んでくれるから,こっちもワーッと喜んで見るんだよ.そうじゃないかね」ーーーはい,そう思います.ありがとうございました.安らかにお眠り下さい.