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池田忍『手仕事の帝国日本 民芸・手芸・農民美術の時代』

 日本美術史研究の大家,千葉大学文学部教授池田忍先生から,御著書を御寄贈頂きました.ありがとう御座います.

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 何という魅力的な御本でしょう.この会議の一つ二つ休んでも読みたいと思います!

マイヤー・ウェーバー論争

 もう一昨年になりますが,「歴史は科学か」というテーマについて,古代ギリシャ史が専門の歴史学者エドゥアルト・マイヤー(Eduard Meyer 1855-1930)と歴史学者・社会学者マックス・ヴェーバー(Max Weber 1864-1920)の行った論争の講読希望者を募集しておりました.ようやく今年度から院生の参加者が現れましたので,ぽつぽつ始めております.大体火曜日の6限です.有り難いことにお忙しい中(お忙しさといったら洒落や冗談ではありません!),アイルランド史が専門の歴史家にも参加して頂いていますので,歴史学史や研究方法論について本当に勉強になっております.ついでに現代の大学行政の裏話表話にも花が咲き,果ては若手の気鋭の研究者たちのお噂も聞け(シェークスピアのK先生とか行政法のY先生とか)楽しいばかりで私一人得をしております.
 勿体ないので,どうぞ興味のある方はお立ち寄りください.

 しかしウェーバーのドイツ語の読みにくさにも定評がありますが,マイヤーのドイツ語の「非道さ」にも驚くべきものがあります.

 Aber im Grunde besagen die einzelnen Individuen herzlich wenig gegenüber den Massen: sie sind nicht imstande und verdienen auch kaum, Objekte wissenschaftlicher Forschung zu sein. Die Massenpsychologie, die "sozialpsychischen" Faktoren, das ist es worauf es ankommt.(S.11)


 どうですか,"das ist es worauf es ankommt" !! このレベルの冗長な表現が目白押しです.私も文献学者の端くれですから,いたずらに自然科学の厳密な方法を模倣して,図式や公式によって史料の豊かさを切り落としてしまう「科学主義」に反対するマイヤーには共感します.しかしその主張を,もっと明晰な論述方法で訴えることも可能だったのではないかと思います.これも当時の学界の流行だったのでしょうか.これ自体研究対象のような気さえするのです.

カティリナの謀叛

 ラテン語講読の授業で10年以上ずっと続けてきたカエサル文集が先日無事終わりました.定年前になんとか終えられて安心いたしました.『ヒスパニア戦記』には手を焼きましたが,幸いにも最近岩波から高橋宏幸先生の『カエサル戦記集』が出版され,最新の研究成果を踏まえたこの書の導きで何とか読み終えられました.『ヒスパニア戦記』は,テクストがいかに校訂されるかの見本のような書物ですので,機会があればそのような教材としてまとめられればいいなと,はかない夢を抱いております.

 特に感慨も打ち上げもあるでなく,直ちに次の教材に移りました.次に選びましたのはサルスティウス(Gaius Sallustius Crispus BC86 - 35)の『カティリナの謀叛』(De coniuratione Catilinae, De bello Catilinae)です.その昔院生の頃に授業で講読し,感銘を受けたものです.こうやってこつこつ古典語講読の授業をしながら人生を送れたらどんなにいいだろうと人生の夢を決めたきっかけになった授業でした. 戻って参りましたが,調べ物に追われて感慨にふける暇もありません.

 カティリナは独裁者スラの部下として頭角を現した人ですが,派手な生活で借金がかさみ,起死回生をかけて借金棒引きを公約に執政官に立候補するも元老院に阻まれ,クーデタを企んだが未然に発覚して攻め殺されました.めまぐるしく情勢の動く共和制ローマ末期のエピソードの一つです.これをカエサルの部下であったサルスティウスがコンパクトな歴史書にまとめました.文体文意の明確さで,昔から一級の歴史書として高く評価されています.
 反カティリナのリーダーで当時執政官であったのはあのキケロでした.キケロには事件の渦中に元老院で行った『カティリナ弾劾演説』という 4本の演説が残されています.第1演説の冒頭の言葉「カティリナよ,いつまで我々の忍耐を浪費する気だ」”Quo usque tandem abutere, Catilina, patientia nostra? ” が有名です.

 ずっと火曜日2限で続けております.興味ある方はどうぞ覗いてみてください.これもまた確かな新訳が出るらしいので,一層勉強もはかどることと思います.