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直男癌

 少し古い話になりますが,昨年11月28日の毎日新聞夕刊で,田中和生が文芸時評でモブ・ノリオ「渡部直己はただ一匹か数千万匹か~《直男癌=Straight Man Cancer》の自己診断と根治の模索」(『すばる』2018年12月号)を取り上げ,高く評価していました.文芸評論家・元早稲田大学教授渡部直己が起こしたセクハラ事件について,文学者や学者が正面から発言したほとんど唯一の例だというのです.痛ましいことに被害者の女子学生が結局大学院退学に追い込まれているのですが,モブ・ノリオがその被害者に最後まで寄り添おうとしている姿勢が心に残るというのです.急いで私も読んでみたのですが,田中和生の評にも,モブ・ノリオの文章そのものにも感銘を受けました.
 「直男癌」という言葉を,この時に初めて知りました.2014年頃から使われ始めた,中国語のネットスラングなのだそうです.今ではもう英語でも流布している様子です.モブ・ノリオが上の文章で「直男癌」についてうまくまとめていて,異性愛指向の男性特有の「根治し難い生活習慣病的な性差別的傾向」を批判する概念だそうです.これも近年使われるようになった "mansplain" (相手が女性とみると彼女の専門性などに関わりなく男の自分よりものを知らないだろうと頭から馬鹿にしてかかり,えらそうに,しかし往々にしてとんちんかんな説明をしようとする男の側の滑稽な態度)はさしずめこの「直男癌」の症状の1つということになりましょうか.
 モブ・ノリオの,ラップ風の特異な文体は,私などには話の筋が読み取りにくく,読みやすいものではなかったのですが,セクハラ犯罪例を大人の男が考えるなら,当然膨大な自己批判を含む入り組んだ話になるのが当たり前で,こういう文体に必然性があるのだと私なりに納得いたしました.
 あと余すところわずかですが,私の職場には女性の同僚も,女子学生も,また外国籍の同僚も留学生も多いので,セクシズムやレイシズムに対してだらしない反省では生きていけません.「直男癌」は治りにくい病ですが,数千万匹のうちの一匹として,症状緩和に日々努めていきたいと思います.