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現代ドイツ語の分離動詞 hochstapeln について

 現代ドイツ語にhochstapelnという分離動詞があります。少しでもドイツ語を学んだ人なら、この語を初めて見たときでも、「積み上げる」という意味だろうなと予想がつくと思います。Stapelというのが「ものを積み上げた山、堆積」という意味で、そこから作られた動詞です。元は「杭」「支え」「段」とかいう意味から発展して、英語のstapleや仏語のétapeと同語源らしい。stapelnだけでも「積み上げる」という意味の動詞ですが、景気よくhochを前綴りに補った別の動詞を作っているわけです。
 ところがこの動詞に「経歴詐称をする」という意味があり、こちらの方がよく使われるようです。日本語の感覚でも類推が出来ますが、経歴を「盛る」というようなことでしょう。名詞形のHochstaplerで「詐欺師」です。
 この現代ドイツ語の分離動詞hochstapelnについて、オンラインDudenは「経歴詐称をする」という意味しか記載していません。しかしネット上で例文を探してみたり、DWDS(Digitales Wörterbuch der deutschen Sprache)の記載を見ると、普通に「高く積み上げる」という意味でも用いるようです。特にフォークリフトを使って資材や製品を倉庫に収納したり、建設現場で積み上げる工程を行ったり、DIYで家具を作る場合に用いるらしい。
 家具というのは、自分で好きなように積み重ねることが出来る規格のスタッキング・ラックなどが想定されるらしく、ドイツのメーカーの製品にそのものずばりHochstaplerというのがあります。ドイツのあるレストランは高々と積み上げたハンバーガーが売りで、“Hochstapler”という店名です。
 ただ、「詐欺師」という意味はやはり連想を呼ぶようです。上のレストランの名前もそれを兼ねたしゃれたネーミングなのでしょう。造り付け家具のメーカーinterlübkeのサイトにはこんな文がありました:

Hier eine Idee für alle, die gern hochstapeln (und dabei auf's Flunkern verzichten möchten): bis auf 2 Meter 28 aufeinandergestapelt, können die verschiedensten Kommodentypen miteinander kombiniert werden: offene, mit Türen, mit Klappen, mit Schubkästen.「高く積み上げたい(ただし「ほらを吹く」ことはしたくない)という全ての方に名案があります。2メートル28センチまで積み上げ、様々なタイプの家具と組み合わせが可能です。オープンタイプ、ドア付き、上げ蓋付き、引き出しになる箱付き」

 この「flunkernはしたくないけど、hochstapelnはしたい」、というところが、言葉遊びになっています。
 倉庫や建設現場での作業用機材の説明にこの動詞 hochstapeln 、その名詞形 Hochstapel をよく見かけるのですが、日本語で書かれていたとしても私には専門知識も経験もないのでピンと来ない内容なのが残念です。フライアーチェーン(Flyerkette)の効能に、高く積み上げるのに安全、とあるのは、支えのために縛る、ということでしょうか。

 こういうことを何時までも調べているのが仕事ですが、大半は文法書にも辞書にも授業にも生かせません。いくつか溜まっているので、この場に書いていきます。


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