SSブログ

『セブンティーン』9月号

 『セブンティーン』9月号の特集が話題で,院生が是非ここだけでも読んでみたいと言うから,この雑誌を生まれて初めて購入しました.

     IMG_1082.JPG

 なるほど読みたくなります.研究室に置いておきますから,どうぞみなさん読んで下さい.本当は各自自分で買った方が良いのでしょうが,この雑誌はちょっと買いづらいという人もおられよう.高大連携で授業に参加してくれた高校生諸君にもおすすめだけど,自分で買っているでしょうかね.

 

テ・デウム

 ラテン語入門の授業では,前期に直説法・受動態まで終えます.接続法と対格不定詞句,絶対奪格句などの難物は後期にじっくり扱います.しかし週1の授業なので,これでもずいぶん駆け足になります.格の用法などを丁寧に説明している余裕がありません.初級の至上命令はとにかく形態を覚えることですが,あんまりそれに力をいれると学生から苦情が出ます.こうやって文法事項と戯れるばかりでなく,もっとラテン語による文化に触れたいのです!と(実話).
 しかし他の先生に見られたら叱られるに違いないほど,脱線をしているのです.『まどマギ』の「聖歌」っぽい挿入歌はラテン語っぽいでたらめの歌詞で(一部偶然ラテン語の単語が現れる),メロディーもどちらかというとケルト民謡的だとか称して,不必要に全曲流します.『ファイナルファンタジー8』のオープニング "Liberi Fatali" の歌詞は,辛うじてラテン語になっていますが,歌詞も曲想も,Carl Orff "Carmina Burana" の中の "Veni, veni, venias" から大きな影響を受けていて,中世ラテン文学についての20世紀初めの頃のイメージが不思議な形で再現されていますーーー等と言ってまた全曲紹介します.カール・オルフの原曲は明るい恋愛詩ですが,リズム感の強い曲風なので,違った風に受け取られているのも興味深い文化伝播です.

 もちろんこんな話は,例が豊富にありすぎて,私の雑談ごときではとても全容を紹介できません.
 だから,学生の皆さんにヒントだけ出します.
 第1・第2変化形容詞をやったら,"Ave Maria"(アヴェマリア) を紹介します.
 第4変化名詞をやったら,"dies irae" (「怒りの日」)を紹介します."requiem aeternam"(レクイエム) もついでに紹介します.
 受動態と命令法をやったら,"miserere nobis/ dona nobis pacem" (ミゼレレ)や "te deum laudamus, te dominum confitemur"(テデウム)を紹介します.
 これらの聖歌が,同じ歌詞に実に様々な音楽を作曲されてきたきたことを紹介します.何百とある「アヴェ・マリア」や,ミサ曲が,全て同じ歌詞から作られていること自体知らない学生が沢山います.いろいろな時代のいろいろな考え方、宗教観がいろいろな音楽を生み出しています.その多彩な流れは,ヨーロッパ近代文化史そのものです.文化史はここから学ぶものだと思います.比較研究にも,表象研究にも速やかにつながっていきます.
 今は有り難いことに,ネットで検索すると,ずらっとその実例が音源や楽譜とともに並んで出てきます.簡単に聞き比べ,背景を調べることができます.卒論や修論の材料ならいくらでも見つかるでしょう.いろいろな専門に生かせる,こんなに沢山の実例に触れられること,しかもテクストの意味内容を掴んで深く味わえること,それが苦労して語学を学んだご褒美です.
 わくわくしませんか?と言って教員が一人ではしゃぎます.
 一緒になってわくわくしてくれた様子はあまりなさそうなのが残念です.