SSブログ

シュトルムの怪談とサリエリ

 夏休みがいくらも残っておりませんが,予定の半分も終わりません.毎年の愚痴や弱音はともかく.

 先日の台風で房総半島は大災害となり,まだ南部の方は復旧しておりません.千葉大は木々が折れ,一部停電があったくらいでありました.連絡の付いた身近の学生たちの中にも,2日間の停電に苦しんだ者がおりました.被災され塗炭の苦しみをなめておられる方々が,一刻も早く元の平安な暮らしを取り戻されますよう,願ってやみません.

 Apel/Laun:Gespensterbuch (1811-15) と Moser:Salieri (1827) の読書会は休暇中も続けて参りました.
 不勉強なことで,最近ようやくあのシュトルム (Theodor Storm 1817-1888) に "Neues Gespensterbuch" という作品があることを知り,手に取った次第です.怪談好きであったシュトルムは自ら怪談実話を収集しており,整理して出版するつもりであったのが何かの事情で実現しなかった.その清書された手稿が1988年に発見されたのだそうです.これが1991年に Insel社 から出版されています.
 全部で69話集められていますが,その第12話が以下の通りです:


12. Der kürzeste Weg

Gluck und Salieri arbeiteten gemeinschaftlich an dem Melodrama »Das jüngste Gericht«. Lange hatte Ersterer über die Art nachgedacht, wie er den Heiland wollte singen lassen. Er fragte endlich Salieri um Rat; auch dieser zeigte ihm von seiner Seite die nämlich Verlegenheit. »Nun denn«, antwortete der Componist der Iphigenia, »weil wir den Ton nicht wissen, aus dem wir den Weltheiland können singen lassen, so will ich das Kürzeste nehmen und in vierzehn Tagen selbst zu ihm gehn.« - Acht Tage darauf starb Gluck.


12.最短の道
 
 グルックとサリエリが共同して音楽劇『最後の審判』に取り掛かっておりました.長いことグルックが頭を悩ませていたのは,救世主をどのように歌わせたらよいだろうかということでした.とうとうサリエリに相談しますが,サリエリの方でも困惑して見せるばかりです.「それなら」と『イフィゲーニエ』の作曲者グルックは答えました.「救世主にどんな高さの音で歌わせたら良いのか私たちには分からないわけだから,最短の道を取って私自分で,2週間の内に救世主のところまで行ってきますよ.」―――その1週間後にグルックは死んでしまいました.


 たまたま平行して進めていた読書会のテーマが一緒に現れるのが面白かったので紹介します.この話は,モーゼルの『サリエリ伝』にもうちょっと正確に詳しく出ているようですが,前後の事情が違っています.原著121ページ以下です.『最後の審判』をサリエリが委託されて作曲していたが,救世主をどの声部で歌わせたらいいのかわからない.高いテノールにしたいがそれで良いだろうかと迷って大先輩のグルックに聞きに行ったら,それで良いでしょうとグルックは答え,さらに本気と冗談半分半分で次のように言ったそうです:
 
 In kurzer Zeit werde ich Ihnen aber aus der anderrn Welt mit Sicherheit melden können, in welchem Schlüssel der Heiland spricht.

 救世主がどんな高さのキーで話すのか,近いうちに私,あの世から確実な話をあなたにお伝えできると思いますよ.

 この4日後に(1787 11/15)にグルックは死んだと.実際卒中をやり,もうグルックも大分弱っていて,グルックの仕事をサリエリが代わるようなことがあったようです.
 
 このシュトルムの手稿は1842/3年ころ成立したらしい.そうすると,この話の成立と,例のひどいデマと悪評(モーツァルトを毒殺したとかいうあれ!)が広まった頃と同じころではないでしょうか.何だか空想が広がります.

こども六法

 尊敬する法学の先生方が推薦しておられたので,私も読んでみたいと興味を持った本が届きました.山崎聡一郎『こども法』(2019,弘文堂)と西原博史『うさぎのヤスヒコ、憲法と出会う』(2014,太郎次郎社)です.

     IMG_1188.JPG

 一般教養の授業を担当する教員なら誰でも,自然科学・技術についての常識と並んで,法律の常識は不可欠だと思います.人権が守られなければ,科学も芸術もあったものではない.これらの本は子供向けですが,私にはちょうど良い,どころか,じっくり勉強しないといけません!
 しかしどなたか書いておられたが,『こども六法』は直ぐに大人や学生が学ぶべきことだろうと思います.

     IMG_1190.JPG

 昨今の事件を見るにつけ,本当にそう思います.実際に「大人向けのあとがき」も付いていて,わたしたちも叱咤されます.
 『こども六法』が「第7章 いじめ防止対策推進法」で締めくくられ、「大人にはいじめから子どもを救い、いじめをなくす義務がある」と書かれているのを見るだけでも,著者の皆さんの願いが伝わります.1人でも多くの児童生徒学生青年の手に渡りますように.