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袞冕十二章(こんべんじゅうにしょう)

 袞冕(こんべん)という漢字は初めて見たし,読めませんでした.何年かに一人は教え子に「漢字マニア」がいて,高校時代に既に漢検準一級を取っていたりするのですが,そういう人なら読めるのでしょうか.「袞」という字は辛うじて,さんずいを付けると「滾(たぎ)る」「滾々(コンコン)と湧き出る」の「滾」という字になることが分かったくらいです.「冕」に至っては手も足も出ません.
 「袞」というのは帝王の特別の礼服,「冕」というのは帝王の特別な冠のことなのだそうです.十二章というのは,帝王の権威を表す十二の飾りの図案のことで,この礼服に描くならわしなのだそうです.特別,というのは,中国文化圏の帝王が即位の礼に特別に着用する礼服と冠なのだということです.先日日本史の先生の簡単な講義を受け,初めて知りました.
 明の神宗(萬曆帝 1563 – 1620)が着用しているのが,この特別な礼服と冠だそうです.

Wanli-Emperor(明神宗万暦帝).jpg

 あの輪っかに板を乗せて,玉すだれがぶら下がっている冠がとても印象的で気になるものですが,由緒があるのですね.「いらすとや」さんの始皇帝の似顔絵にももっぱら冠が強調されています!

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 けれども気になる冠と同じだけ重要なのが,礼服に描かれている図柄=十二章なのです.
 十二章とは何かについては,四書五経の中の『書経』第一巻の「益稷」のところにあるのが最古の用例のようです.

予欲觀古人之象,日、月、星辰、山、龍、華蟲作會;宗彝、藻、火、粉米、黼、黻,絺繡,以五采彰施于五色,作服,汝明。

予れ古人の象を觀んと欲す。日・月・星辰・山・龍・華蟲會[えが]くことを作し、宗彝・藻・火・粉米・黼・黻、繡を絺[ぬ]うに五采を以てし、彰らかに五色を施して、服と作[せ]ん。汝明らかにせよ。

 この「日(じつ)、月(げつ)、星辰(せいしん)、山(さん)、龍(りゅう)、華蟲(かちゅう)、宗彝(そうい)、藻(そう)、火(か)、粉米(ふんべい)、黼(ほ)、黻(ふつ)」とは何か.
 『史記』のフランス語訳(1967, par Edouard CHAVÀNNES, https://gallica.bnf.fr/ark:/12148/bpt6k5425532r/f8.item.texteImage )に次のような図が紹介されています.

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 「華蟲(かちゅう)」というのは雉こと,「宗彝(そうい)」というのは祖先を祀る廟に飾る酒器のこと,藻(そう)は水草,黼(ほ)は斧の形の模様,黻(ふつ)は「両己相背く」模様.
 中国版のウィキ,baiduに帝王の画像がいろいろあげられています.
 https://baike.baidu.com/item/衮冕

 孝明天皇即位の際の袞衣と冕冠が残されていますが大枠でこの形式を守りながら,日本風にアレンジしたらしい.

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 特に冠は中国より派手な作りになり,日輪なども取り付けられています.後醍醐天皇の肖像がかぶっているのがこれらしい.「いらすとや」さんの後醍醐天皇の似顔絵はそこを見逃しません!

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 こういう古式ゆかしい伝統の服装をやめ,即位礼の服装を今のような「立纓黄櫨染御袍(りゅうえいこうろぜんのごほう)」に革新したのは明治天皇からだそうです.
 来たるべき即位の礼も,袞や冕といった古式ゆかしい伝統の礼服ではなく,明治以来の革新的な礼服で行われることと思います.