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「なつぞら」と「冬の日」

 4月1日から始まる,次のNHKの「朝ドラ」(2019年度前期連続テレビ小説)「なつぞら」は,戦後日本のアニメ映画を牽引した奥山玲子(1930-2007)をモデルにしたお話なのだそうですね.遅まきながら先日ようやく知りました.
 宮崎駿の先輩にあたる,奥山玲子・小田部羊一夫妻の作った初期のアニメ映画には,子供の頃よく母親に連れて行ってもらいました.母親は昭和一桁の生まれですが,1960年代に流行っていた怪獣映画の破壊と暴力が空襲の生々しい記憶を呼び覚ますために嫌いで,アニメ映画が好きだったのです.「白蛇伝」もはっきり覚えがあるのですが,さすがにまだ赤ん坊だったはずで,再上映のものを観たらしい.「西遊記」では火焔山のシーンで画面いっぱいに燃えさかる炎を恐がって泣き叫んだそうですが(子供の私がです),よほど印象に残ったらしく,その直後幼稚園で,橙色の毛糸と粘土を使って燃えさかる山の作品を作ったそうです.

 ・白蛇伝(1958)
 ・少年猿飛佐助(1959)
 ・西遊記(1960)
 ・安寿と厨子王丸(1961)
 ・アラビアンナイト シンドバッドの冒険(1962)
 ・わんぱく王子の大蛇退治(1963)
 ・わんわん忠臣蔵(1963)
 ・狼少年ケン(1963年)
 ・太陽の王子 ホルスの大冒険(1968年)
 ・空飛ぶゆうれい船(1969年)

 奥山玲子・小田部羊一夫妻は晩年,芸術性の高い凝った作品に参加していったように見えます.「注文の多い料理店」(1993)は文化庁優秀映画作品賞をはじめとする多くの賞を,「連句アニメーション 冬の日」(2003)は第7回文化庁メディア芸術祭アニメーション部門大賞を受賞しました.
 しかし「冬の日」は驚くべき作品だと思います.芭蕉の連句「狂句こがらし」を,35人のアニメーターが集まり,一句ずつ密度の高い音楽と映像を付けているのです.わかりやすい映像は一つもありません.けれどもどの作品も曰わく言いがたい強い魅力を放っています.
 そもそも私などには,芭蕉の連句そのものが分かりません.よせば良いのにこれをまた安東次男の評釈で読むものですから,ますます近寄りがたくなります.該博な知識と精密な解釈を元に,頭から人を見下し,万事喧嘩腰である安東次男の文章は私には読みやすいものではありません.
 奥山玲子・小田部羊一夫妻は「冬の日」で第11句「影法のあかつきさむく火を燒て」を担当しています.傷つき苦しむ大地母神が渋い色調で描かれているように見えます.何故連句アニメがここにたどり着くのか,私にはまだよく分かりません.
 「なつぞら」が「冬の日」につながるという話をしたいのではありません.「なつぞら」を仰いで現代日本アニメ史を切り拓いていってくれた奥山玲子のおかげで,私たちはこれほど豊かな文化を享受しているのだとしみじみ感じているのです.