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数学再見

 授業準備の必要があり,島田静雄『CAD・ CGのための基礎数学』(2000 共立出版)を悪戦苦闘しながら少しずつ読んでいます.マンガでも絵画でも,画像が与える芸術的効果を考えるために解剖学と遠近法の必要性を説明していたら,パースペクティブの原理について,さすがに中学校で習ったので分かっていたつもりですが(それらしい図をパワーポイントででっち上げることもできます!),実際にどういう式でどういう計算をするのか全く理解していないことに気付いたのです.島田静雄先生のこの本は名著なのだそうですが,もう版元品切れのところ,著者が全部PDFで公開してくれています.なんだか申し訳ないので,古本でも求めました(著者には何のメリットもありませんが).

 授業で解剖学の話をしていても,骨格と筋肉は大事だけれど,ダビンチも古代ギリシャ人も,脂肪の美しさについて分かってなかったんじゃないかしら,などと私はすぐ脱線します.

 島田先生の本でも,初めのところがとても感動したのです.

 コンピュータを利用して図面を描くためには,最小限の寸法数値を入力し,幾何の原理を応用してコンピュータ内部で必要な数値を計算させなければなりません.このとき,幾何の原理に立脚した理論値と,実用計算での精度との葛藤が起こります.例えば,三角形の内接円の中心を角度の二等分線の交点で計算させることを考えます.三つある二等分線から二つずつ選んで交点を三つ計算すると,三点の座標が完全に一致することはまずありません.(sic!)計算幾何学の課題の一つが,このような誤差の問題に合理的な解決方法を提供することにあります.(4頁)


 私が素朴に子供の頃から抱いていた数学や幾何のイメージと,なんと違っていることでしょう!いえ,コンピュータによる計算のイメージとも異なります.理論の上で完璧につじつまが合っていればそれで終わりというものではないのですね.こういう飾らないざっくばらんな説明が,どれだけ専門外の人間を楽しませ,幸せな気持ちにさせているか,お分かりにならないでしょうね.

 島田先生は橋梁工学という,橋を架ける工学が専門なのだそうです.

 1960年代の大学紛争以来,産と学との結びつきが罪悪視されるような変な時代になってしまったので,筆者などは,大学で紙の上だけで橋の研究をする羽目になってしまいました.幸いなことに,コンピュータという新しい道具が利用できるようになって,CADを新しく研究対象に加えることにしました.・・・橋は公共構造物ですので,設計書や図面は公文書として扱われます.橋は何十年も使いますので,その文書は大事に保管しておかなければなりません.これが,データベースを始めとした情報文書管理の研究とに繋がるのです.(iv頁)


 アーカイブの方はまだまだ日本では理解がなく,整備もひどく遅れているようですが,「産と学との結びつきが罪悪視されるような変な時代」はとっくに終わってしまったようですよ,先生.今度は行き過ぎで,入試まで私企業やそれにつながる人々の利益のために売り渡そうとする動きさえあって,困っていますが.