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ドイツ語の動詞 miauen の過去分詞

 家族が学会発表のためにオノマトペについて調べていて,色々面白い「新発見」をシェアしてくれました.ドイツ語の「笑う」lachen もそもそもオノマトペから発しているというのも恥ずかしながら今頃ようやく知りましたが,面白いが,さほど授業に有用な知識でもなさそうです.それよりはるかに恥ずかしかったのは,「(ネコが)鳴く」miauen という動詞の過去分詞が,gemiaut ではなく,miaut であることを初めて知ったことです.Duden や Langenscheidt の権威ある辞書をみると,確かにそう書いてあります.
 これは一体どういうことか.

 しかし,ドイツ文法をまとめたサイトをいくつか回ってみると,gemiaut と miaut の両方が書かれていて,変化表を載せているサイトではむしろ gemiaut の方が優勢のように見えます.
 しかもドイツ人が気楽にドイツ語についての疑問を出し合うサイトをいくつか覗いてみると,なんとドイツ人たち自身が,miauen の過去分詞って,gemiaut なの miaut なの?と議論している有様です!いいから Duden 見ろよ,とか,gemiaut なんて見たことねえよ,とか,gemiaut ってなんか響きがへん,とか興味深い書き込みが見られます.

 ドイツ語初級文法を少しでもご存じの方なら,私が何を騒いでいるのかお分かりいただけるでしょう.ドイツ語の過去分詞の形成法に,語頭に ge- を付けるか付けないかで一見ややこしい規則があります.
 原則自体はいたって明快です.動詞の語頭にアクセントがあれば,過去分詞の語頭に ge- を付ける,語頭にアクセントがない動詞は,過去分詞の語頭に ge- を付けない.音で覚えているから,ドイツ語母語話者にとっては本来簡単な規則のはずです.
 ゲルマン諸語の特徴の一つが,語のアクセントを第一音節に移して固定したことだから,ゲルマン系の基本語彙についてアクセントの位置と,従って過去分詞の ge-問題についても議論の余地はありません.問題となるのは:
 1)非分離派生動詞(語頭の接頭辞にアクセントが来ず,基本語のアクセントが保持されるので,見かけ上アクセントが第一音節に来ないことになる)
 stéhen → gestánden「立っている」しかし verstéhen → verstánden「理解する」
 2)外来語起源の動詞(外来語である特徴を第一音節にアクセントを置かないことで示す傾向がある.外来語の多くが語末付近にアクセントを置くことを特徴とするロマンス系の言語に由来するから)
 studíeren → studíert「研究する」
 posáunen → posáunt 「トロンボーンを吹く;吹聴する」

 では miauen はどうなのか.
 上の原則を貫くなら,多くのドイツ人が,miauen の過去分詞が miaut であるべきで,gemiaut はおかしい、と思う原因は,この動詞が [mjáu-en] という,第一音節にアクセントのある2音節語ではなく,[mi-áu-en] と,第二音節にアクセントのある3音節語だと理解している,ということに他なりません.この /mi/ は,経験的にも頷けますが,我々外国人が綴りから予想するより「長め」に発音するようです.-tion は [-tsjó:n]で,母音が後続した /i/ は半子音化するようなのですがね.

 オノマトペでは,話が別なのでしょうか.